朝3時に起きる予定が寝坊して5時に目が覚めた。
お酒を飲んで24時くらいまで話していたから寝すぎてしまった。

バヤンモックは馬の世話でもう出掛けたようだ。
俺は、まだ眠っているお母さんを横目に身支度を整えて、クロとジョナを迎えにいき、水をあげて鞍を付けた。

クロもジョナもすっかり疲れは取れたようで、早く走りたいと言わんばかりに軽快に歩いている。
ゲルに戻るとお母さんが肉うどんを作ってくれていた。

「最後だし、しっかり食べていきな」

寝坊したからすぐにでも出発しようと思っていたけれど、お母さんに促されて急いで肉うどんをかきこんだ。
食べている途中でバヤンモックも帰ってきた。

食べ終わると、お母さんが「これもお昼に食べなさい」とパンにバターをたっぷり塗って渡してくれた。









クロに荷物を括り付け、出発の準備が整った。

「バヤンモック、本当にお世話になった。ありがとう。また何年か経ったら会いに来るね」

「本当に行くのか??あと一週間だけ伸ばさないか?」

「ごめん、すごく残りたいけれどもう行かなきゃ」

「わかった。モンゴル人でも難しい距離をたった一人で行こうとしてるタイトを俺たちも誇りに思っている。お前にあげた子馬は俺がしっかり育てておくから絶対にまた来いよ!何かあればいつでも戻ってこい」

「ありがとう!次の町についたら必ず電話するね」

そういってバヤンモックと握手&ハグをして、3日間泊めてもらったお礼に気持ちばかりだが2万Tg(1400円程度)を渡した。
拒否されても絶対に渡そうと覚悟していたけれど、意外にもすんなりと受け取ってくれた。

お母さんを見ると、目を真っ赤にして涙をこぼしていた。
耳が聞こえないお母さんとモンゴル語が不慣れな俺だからかなんとなく波長が合っていて、バヤンモックと同じかそれ以上にたくさん話して、たくさん笑い、モンゴル語や習慣について色々と教えてもらった。

たった3日間なのにまるで自分の息子のように、布団をかけてくれたり、ご飯をたくさん作ってくれたり、本当に良くしてもらった。

お母さんがすすり泣きながら言った。

「3日前に来た時のボロボロの状態だった姿を見ているし、この辺りにはオオカミも山賊もいるから本当に心配だ。お願いだから絶対に死なないでおくれ」

そう言って、お母さんはハグをしてくると同時に、せきを切ったように声を出して泣きはじめてしまった。

俺も、この家族とまだ一緒にいたい気持ちと、こんなにも想ってくれているお母さんの優しい気持ちに触れて涙が止まらなくなってしまった。

人前で涙が止まらなくなったのは子供の頃以来だろう。


「このままうちにいてもいいんだよ?」とお母さんが言ってくれたが、「行かなくちゃ」と言ってジョナに跨った。

「本当にありがとう!」

涙はまだ止まらないけれど笑顔で手を振ると、お母さんも涙でぐちゃぐちゃになった顔を笑顔にして手を振ってくれた。

バヤンモックも目を真っ赤にしながら手を振って「また3年後に絶対遊びに来いよ!」と言ってくれた。


しばらく涙が止まらなかった。

本当に良い家族で、良い町だった。




1時間ほど進んだ頃、後ろから「タイトー!」という声が聞こえた。

振り返るとバヤンモックと弟がバイクで来てくれた!

馬を止めて、「どうしたの?」と聞くと「これ、持ってけ!」とスーパーのビニール袋を突き出した。

中身を見ると、たくさんの缶詰とジュースが入っている

「これも買ってきたから最後に飲もうぜ!」とデール(モンゴルの民族衣装)の袖口からウォッカを取り出した。

ざっと見ただけで1万5千Tgくらいはするだろう。


お礼に渡したお金のほとんどを使って買ってきてくれたようだ。

3人で草原に座り、ウォッカを飲み始めた。

「本当に出発するのか?あと1週間だけ残らないか?」

バヤンモックはまだ諦めきれていないようだ。

弟も「1週間くらいなら馬を飛ばせばビザにも間に合うから大丈夫だよ!」と説得してくれている。

トラブル続きだから、今日出発しても間に合わないかもしれない事を伝えると渋々納得してくれた。




▲近くにいた近所の子供も一緒に





最後に2人にハグをして、ジョナに跨り出発。

「また3年後に遊びに来いよー!」

大きく手を振って出発した。


最初にこの町に着いた時、世界一綺麗な町だと感じたけれどそこに住んでいる人たちもみんな親切で、もしビザの期限がもっと長ければ、まだこの町を離れたくなかった。

でもみんなに出会って、自分の事のように誇りに思ったり応援してくれているから、必ず最後まで無事に横断を終えようと改めて強く決心した。




たまに小雨が降る中、いくつもの山を越えた。

ジョナもクロも軽快に進む。















急な斜面はジョナから降りて登ったけれど、まだ踵の痛みは全く引かない。

骨からの痛みだからあまり無理をしないでおくことにする。



13時頃、地面に座ってお母さんの作ってくれたパンを食べた。

噛む度にお母さんの顔を思い出して、あの町が恋しくなった。



17:30頃、目的地に到着。

ゲルが2つあったから挨拶をしてテントを張った。


テントを張ると同時に大雨が降った。

夜はやたらと寒くて、デールを着たまま寝袋に入っても震えるほど。

恐らく気温は5度くらいまで下がっていると思う。


日が出るまでジョナとクロの様子を見て、日が出てから2時間ほど寝た。


移動距離:43
座  標:北緯 49.10207 , 東経 95.16557