ゲルに戻ると、ちょうどお母さんが作ってくれていた内臓鍋が出来ているようだった。
弟家族も来ていて、今日は賑やかだ。
みんなで内臓鍋を突いて食べた。
見た目はグロテスクだけれど、味は最高に美味い。
これを食べながら飲むウォッカも堪らなく美味い!
お酒を飲みながら話してるとバヤンモックが急に真剣な顔で話し出した。
「タイト、本当に明日出発するのか?俺たちは家族のように思ってるし、ビザが残っている間はずっといてもいいんだぞ。オオカミ狩りも連れて行くし、馬の事もたくさん教えてやる。ビザの期限になったらウランバートルまでバイクで送ってやる」
続けてお母さんも両手で俺の手を握り、涙目で話し始めた。
「バヤンモックの言うとおりにしなさい。馬に慣れているモンゴル人でも一人で旅することは危ない。私もタイトを息子のように思ってるし、この先にはオオカミも山賊もいるから心配で眠れなくなってしまうよ」
正直、心が揺れていた。
この村も、この家族も大好きで、今までで一番楽しい時間だったし、たった3日の間でもこの村に住みたいと何回も思った。
弟も、「今日組み立てたバイクで色んな場所に連れていってあげるから」と説得してくれているけれど、このままこの村にいて帰国するのと、横断して帰国するのではどちらが後悔がないか冷静に考え、「気持ちは嬉しいけれどやっぱり明日出発するよ」と伝えた。
すると、弟が「ちょっと待ってろ」と言ってゲルを出て行った。
しばらくして戻ってくるとその手には銃が。
「この先、オオカミと山賊がいるからこれを持っていけ」と銃を渡してくれた。
「え?本当にいいの?!」
正直、今の3mの鞭では身を守るには弱すぎると感じていたから心強かったけれど、冷静に考えると外国人の無許可の銃所持は見つかれば捕まるか強制帰国になるだろう。
ただでさえ、よく警察に目を付けられるからリスクが高すぎる。
「本当にありがとう。でも、気持ちだけ受け取っておくよ。」
記念に写真だけ撮って銃を返した。
バヤンモックも「これあげるよ。タイトの為に作ったんだ」と馬用の足枷を渡してくれた。
たった3日しかいなかったのに、こんなにもよくしてくれるなんて。
ずっと緊張や不安、心細さを感じていたから、バヤンモック家族の優しさが心に痛いほど染みた。
今晩で最後なのが名残惜しくて、たくさん飲んで話した。
途中でみんなから地図を見ながらこの先の道や村、水のある場所や危ない場所を教えてもらった。
バヤンモックが真剣な顔で話した。
「いいか。絶対に森には入るなよ。この辺りの森には山賊がいるから簡単に殺されるし、周りに警察のいる村もないから死体も見つからない。銃を持っているヤツも多いからオオカミよりもよっぽど危ない。本当に気を付けろよ」
「分かった。気を付けるよ」
「次の村に着いたら俺の携帯に必ず電話をしてくれ。みんな心配して待ってるからな」
そういって俺のノートに携帯番号を書いてくれた。
しばらく飲んで話してから寝た。