朝、起きてみると本降りの雨になっていた。

日の出から軽く寝て、7時に出発する予定だったけれど雨が止むまで待つことに。

かなり強い雨が続いていて、なかなか止まない。

13時になり、ようやく霧雨に変わった。
急いでテントを畳んで、荷物をまとめる。

ジョナに荷物を括り付け、新しい馬に鞍をつけた。

クロに近付き、「本当に今までありがとうな」と言って首にハグをすると、クロは頭を少し下げてじっとしていた。

クロがいなかったら荒野で倒れたタイミングで恐らく俺は死んでいただろう。
本当は最後まで一緒に行きたかったけれど、今のクロの足のケガではこれ以上は無理なのは分かっている。
しっかり休ませてあげないと。

しばらくハグをした後、「元気でな」と頭を撫でてあげて、新しい馬の方に行くとクロも後ろをゆっくりついてきた。

もう一度クロにハグをして「もう十分に頑張ってくれたからもう大丈夫だよ。ゆっくり休んで元気になるんだぞ」と言って聞かせた。

これだけ大変な道のりだったにも関わらず付いてこようとしてくれる優しさや、やっぱりまだクロと一緒に旅をしたい気持ち、今まで本当に難易度が高い旅をずっと助けてくれた感謝の気持ちが一気に溢れてきて体が震えて涙が零れた。

深呼吸をして覚悟を決め、「元気でな!」と言って新しい馬に跨った。

新しい馬にはケンと名付けた。




ケンとモングェルデネ家族(右がモングェルデネ)




クロ






かなり暴れ馬気質で、ジョナと一緒に引こうとするとロデオ状態に。

なんとか制して、再びジョナと一緒に綱を引こうとするもまたロデオ状態に。



それを見ていたモングェルデネが、「最初だけ俺が乗ってやるよ!」と変わってくれた。

馬飼いのモングェルデネすら苦戦しながら乗っていて不安が募る。


1kmほど進んだところでケンも落ち着いてきたし、モングェルデネと交代。

興奮しているもののさっきよりはかなりマシになった。



「なにかあればすぐに電話してくれ。どこにでも助けに行くから」とモングェルデネは言ってくれたけれど、ケンを制するのに集中していて余裕はほとんどなくて、手を振ることもできずに「ありがとう!また連絡する!」と伝えて走り出した。

しばらく全力で走らせると、少し落ち着いてきた。

軽く歩かせてみたら、後ろから前に出ようとして隣に並んだジョナを噛もうとした。

ジョナは怖がってまた少し後ろに下がったところを歩き始める。

またジョナが近づくと噛もうとしてきて、ケンはかなり気性が荒い性格のようだ。


しばらく進むと小雨は土砂降りに変わってきた。

荷物からレインコートを取り出して着てから出発しようとすると、ケンが近付くだけで大暴れ。

ロシア軍制で、馬が嫌がるシャカシャカ音が出ないレインコートなんだけどケンは苦手らしい。

しょうがないからレインコートを脱いで荷物に仕舞って、デール(モンゴルの民族衣装)だけで再び出発。


今日の気温は12度でかなり寒く、手綱を握る指はかじかんで、レインコートを着ていないせいでパンツまでビショビショに濡れてめっちゃ寒い。

それでもケンが不慣れだから手綱に集中して進み続ける。


相変わらず雨はすごい勢いで降り続け、辺りが暗くなってきた19:30にようやく目的地の小さな村に着いた。

食料だけって、ビショビショの体で近くのゲルをノックすると、中年の女性が出てきた。

「どうしたんだい?こんなに濡れて。」

「一晩だけ泊めてくれない?」

「もちろん!どうぞどうぞ」

ゲルの中にはその女性の夫と思われる中年の男性が座っている。

晩御飯を食べた後でお酒を飲んでいたようだ。


薪ストーブのおかげでかなり温かい。

夫が立ち上がり、笑顔で俺の荷物を運ぶのを手伝ってくれながら話し始めた。

「フイルテーだ。よろしく。どこから来たんだ?一人か?」

「一人だよ。バヤンウルギーから」

夫婦は顔を見合わせて驚いて、

「モンゴル人でも難しいのによくここまで来れたな!」

と感心してくれた。

濡れた服も、「脱ぎな」と言ってゲルの中に干してくれた。


奥さんが鍋に残っていた残飯を皿に装って、ご飯の準備を始めようとしてたから、ポケットの板チョコを取り出して「これがあるし、本当に大丈夫だよ」と伝えるも「こんな冷え切った体じゃ風邪を引くから遠慮せずに食べて!」とやや強引に肉ご飯を作ってくれた。

どうやら日本語が話せる兄弟がいるとのことで、初めて日本人に会えたのがすごく嬉しいらしい。

フイルテー夫妻は本当にいい人たちで、昼間の初めてケンに乗る緊張感と豪雨の中の冷たさと、この夫妻の人柄の温かさとゲルの暖かさのギャップが大きくて一気に緊張がほぐれた。

肉ご飯を食べた後はお酒を飲みながら、日本の写真を見せたり、日本のことを話したりして過ごした。


移動距離:40km
座  標:北緯 4805.597 , 東経 9909.826