朝、起きるとバヤンモックの弟が目を輝かせてこっちに来た。
「タイト、バイクが届いたんだ!組み立てを手伝ってくれ!」
午前中に出発しようと思っていたけれど、まだクロもジョナも疲れているようだし、バヤンモックと弟にもお世話になったからバイクの組み立てを手伝っていくことにした。
バイクはAmazonみたいに段ボールで部品が届いて、自分で組み立てるようだ。
元々、日本ではバイクで北海道と沖縄以外の全都府県を周ったほどのバイク好きだったから俺が主体で色々と教えながら作業を進めた。
想像以上に部品が多いのに2ページほどの頼りない説明書しか入っていない。
素人が組み立てるにはかなり難易度だ。
途中、他の友人も手伝いに来てくれたけれど、結局朝9時くらいから作業を始めて15時くらいに組み立て終わった。
弟さんは自分の初めてのバイクが出来上がって大満足。
そのまま慣らし運転に出掛けて行った。
一休憩したら、今度はバヤンモックが俺の為にヤギ一頭を解体してくれた。
あまりやらせてもらえない締めも教えてくれた。
生きているヤギのお腹にナイフで切れ込みを入れて、そこから手を突っ込み、内臓の間に手を入れていって動いている心臓を見つけ出す。
その心臓の左上側から出ている動脈を手で引きちぎって締める。
今まではどの血管か迷っていたけれど、今回でどの血管を引きちぎればいいのかなんとなく分かってきた。
動いている心臓を直接触るのは、本当にこれから命を頂くのだという実感を文字通り、肌で感じる。
締めた後は内臓を全部鍋に出して、お母さんがその内臓を下処理をしている間に皮を剝いでいく。
内臓は内臓鍋にするのだけれど、見た目はグロテスクでもコクも強くてめっちゃ美味しい!
個人的には羊の内臓鍋の方が臭みがなくて好きだけれど、どちらもウォッカとの相性は最高だ!
皮を剥ぎを終わる頃に、友人が二人訪ねてきた。
これからクロの蹄鉄を打ってくれるとのことだ。
俺が川の近くで草を食べているクロに近づいても逃げない姿を見て、みんな「すごい信頼関係だ」って褒めてくれた。
クロを4人がかりでひっくり返して、俺が頭を抑え込む。
その間に友人の一人が、蹄鉄が外れてしまった足に代わりの蹄鉄を打ってくれた。
蹄鉄を打ち終わった友人が暗い顔をしながら言った。
「タイト、この馬は足が悪いからウランバートルまではいけない。30万Tg(2万1000円程度)で他の馬と交換してあげることも出来るがどうする?」
「ありがとう。ちょっと考えさせて」
バヤンモックも交換しておいた方がいいと薦めている。
突然の提案に動揺した。
クロに一度、命も助けてもらっているし、クロがいるから安心して旅を続けられている。
何よりすごく懐いてくれているし、クロなしの旅は考えられない。
確かに体は小さいが鞍ズレもすっかり良くなった。
普段は勝手に毒草を食べようとしたり、急に言うことを聞かなくなったりすることもあるけれどいざという時に頼りになる馬だ。
ただ、クロに辛い思いをさせるくらいなら今、交換してあげたほうがクロの為にもなるはず。
ここから先はしばらく5000人規模の町はないし、バヤンモックも交換に立ち会ってくれるから心強い。
ここまで交換しやすい環境はこの先ないだろう。
しばらく考えてみたけれどクロがまだいけるって顔をしてるから、俺のエゴかもしれないけれど明日、クロと一緒に発つことにした。
なるべくこの先はジョナに乗るようにして、それでもクロが少しでも足を痛がるようだったらその時は交換することにしよう。
無事に蹄鉄も付け終わり、明日の出発に備えて最後の買い出しをした。
バヤンモック家族にはお世話になったし、お酒を多めに買って帰った。
ゲルに戻ると、ちょうどお母さんが作ってくれていた内臓鍋が出来ているようだった。