灼熱の熱気、永遠と続く荒野。

残りの飲み水もそこまで余裕はない。


まとわりついている数匹のブヨの羽音が疲れに拍車をかける。

体は、馬を引いて100kmも歩いてきたせいで足の裏の豆から血が出て続けて、靴下が真っ赤になるほどボロボロになっていた。


それでも精神的には『全て投げ出して帰国したい』という気持ちは少しもない。

もしかすると少しだけはあるのかもしれないけれど、むしろ『まだまだやれる!』っていう気持ちのほうが強かった。


そんな中、無意識で、生まれて初めて喜怒哀楽を感じていない状況で涙がボロボロ零れてきた。


最初は戸惑ったけど、それでも歩き続けていると、そのうち涙も止まった。



そして、その後すぐに急に体が軽くなってきた。

もしかすると身体的に限界が来ていて、無意識で体を回復させる為に涙が出たのかもしれない。


まだ今日の目的地までは6時間ほど歩かなきゃいけないんだけど、回復したおかげでなんとか歩ききれそうな気がしてきて、とりあえず一安心。

まぁそんなことが長く続く程、甘くもなく、しばらくしてまた暑さと渇きと疲れが意識を襲ってくる。



冷えたCCレモンをガブ飲みしたい・・・


ガリガリ君を1万円でもいいから買いたい・・・


10kmごとにセブンイレブンがあったら・・・




妄想しているだけで少しは気が紛れる。

足の痛さで何度か意識が飛びそうになるのを堪えていたけれど、ついに耐えきれなくなり、その場で座り込んだ。


座りこむと一気に疲れや眠気がのしかかり、そのままあぐらをかいた体勢で寝てしまった。


しばらくして、暑さと、ずっとまとわりついているブヨの羽音で目が覚めた。

何時に眠たのかは覚えてないけど、時計を見る限り15分程度だと思われる。


後ろを見るとクロもジョナサンも相当疲れた様子で首をうなだれていた。



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今日中に馬がたくさんいるって聞いた湖まで辿り着かないと草も水もあげることが出来ない。

この2頭も相当疲れているんだから俺も頑張って歩かなくては。



休憩したおかげで更に重くなった体に鞭を打って、また一歩ずつ歩き出した。

今まで生きてきた中でダントツで一番の苦しみだ。


出来る限り意識を無にして足を動かし続ける。

30分は歩いただろうと思って、時計を見ても3分しか進んでいない。

それでもなんとか歩き続ける。


しばらくして山が見えてきた。

あれを超えれば湖につくはず。



「早く休みたい・・・」

ペースを上げて一気に進んでみるけど、1時間、2時間たっても一向に全然近づけない。


もう後はほとんど覚えてない。



なんとか歩き続けて山を越えたとき、ついに湖が見えた!

そこで一気に気力が復活!


周りにたくさん草も生えてる!!

フニャフニャの足で一気に駆け下り始めた!

が、しかし!



30分経っても、全然近づかない!





湖が見えてから1時間半後の20:00。


ようやく湖に到着した!

大分、太陽も低くなっている。



本当に、本当に長い13時間だった。



クロとジョナサンが水を貪るように飲む中、横に並んで自分も頭から水に突っ込んだ!


水の冷たさが、『まだ生きてるんだ』という実感を与えてくれる。


クロとジョナサンを連れて、草の良さそうなところに向かっていると、馬に乗った青年が近づいてきた!

「こんなところで何してるんだ?」

「ホブドから来た。ウランバートルを目指してる」

「そんな人は見たことないや!今日はうちに泊まっていきな!ここから10km行ったところだ!色々話を聞かせてくれ!」

「今日は動く元気ももうないからここにテントを張る。明日行くよ」

「絶対だからな!」

そう言うと一気に馬を走らせて山と山の間に消えていった。



近くに集落があると知れただけで一安心だ。


クロとジョナサンを草の良い所に繋ぐと、一気に緊張感も解けて、崩れるように草の上に寝転がって、そのまま寝てしまった。



寒さで起きると既に辺りは真っ暗だ。

1時間弱ほど寝てしまったようだ。


顔は蚊に刺されすぎてボコボコになっている。


急いでテントを広げて中に避難。

疲れていることもあり、ご飯は食べずに板チョコをかじりながら体の治療をした。

近くに村があるし、こういう場所ほど馬が盗まれやすい気がして15分寝て30分起きてを繰り返し、日が昇ってから2時間寝た。



移動距離:38km
座  標:北緯 49.14932 , 東経 91.14437