普段、夜は馬が盗まれないか見ていなきゃいけないのと、馬が周りの草を食べつくしちゃうから1時間半に1回は場所を移動させてあげなきゃいけないので、まとまった睡眠は取れなくて10~15分の睡眠を繰り返していた。

でも昨晩は、おばちゃんの庭の囲いに入れてもらって干し草をたくさん貰ったおかげで久しぶりに3時間半のまとまった睡眠が取れてHPが80%まで回復!

朝5時、馬に水を飲ませに川に行ったりテントを畳んだりしているとおばちゃんが起きてきて、不器用な笑顔で「朝ごはん食べていきな」と家に手招きしてくれた。

暖かいツーヴァン(肉うどん)は冷えた体に染み渡る。


ブヨが集まると馬がパニックになってしまって困っていると相談すると、馬用のブヨ除けクリームを持って行ったほうがいいとアドバイスされて、わざわざ店を開けてくれることに。

おばちゃんおススメのクリームを買って、それをジョナとクロに塗り、おばちゃんにお礼を言っていざ出発!


今日はひたすら上り坂の荒野だ!


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ジョナとクロは干し草じゃ元気が出なかったのか、調子はイマイチ。

目的の湖までは40kmだし、また今日も歩くことにした。



しばらく進むとブヨが出てきたけど、クリームのおかげか全然馬に止まらない。

最初から持っていれば良かったと少しの後悔はあるものの、これでもう大丈夫だ!という安心感の方が強かった!



この日も晴天!というか灼熱!


少し進むとすぐに大きな川が目の前に現れた。

川に近づくに連れて、視界が薄っすら灰色になるほどの大量のブヨが出てきてジョナとクロがパニックに!

何とか落ち着かせる為にジョナに乗って川へ更に近づいてみると、流れもかなり速くて川幅も30mはありそうな大きな川だった。

「この川、馬で渡れるのか?」と疑問に思いながら川沿いに上っていって浅瀬を探していると、大きなトラックが川にハマっていて、おじちゃんが一人で押していた。

どう見ても人間が一人、二人で押せるトラックではない。


「大丈夫??」

多分、力にはなれないだろうけど、声を掛けてみた。


「携帯を持ってないか?」

「あるよ!えっと、これなんだけど圏外みたいだ」

「そうか。困ったな。ここを渡りたいのか?」

「そうそう。でも馬でこの川渡れるの?」

「大丈夫!俺が1頭引いてやるよ!」


そういうとおじちゃんはクロを引いて川を渡り始めた。

それに続くように俺もジョナに乗って着いていく。



真ん中に近づくにつれて、水位はおじさんの胸のあたりまで来ている。

この濁流の中、いつ流されやしないかと冷や冷やしながら見守っていると、ついに渡り切ってしまった。

ジョナもそれに続き、途中流されそうになりつつも無事に渡り切れた!



おそらく自分一人では渡れなかっただろうな。おじさんに感謝しなくては!


「ありがとう!もし近くに人か車を見つけたら、ここに助けにくるよう伝えておくよ!」

「助かるよ!この先も気をつけてな!」


おじちゃんに手を振って、しばらく先に進むと遠くに車らしき土埃が上がっているのが見えた。

全力で叫んでみたものの、こちらには気付いていないようだ。


こういう時、遊牧民はみんな指笛で呼ぶんだけど、まだ指笛はうまく鳴らせない。


叫び続けたり、なんとか指笛を鳴らそうと試みたものの結局、気付かれずにそのまま遠くへ行ってしまった。



この先、指笛が出来るか出来ないかで命に関わる可能性もあるし、早急に指笛を習得しなくては。


ただ、今はもう練習する気力も体力なく、湖に到着することが最優先だ。


この4日で歩いた距離は100kmを超えていて、昨日の3時間半の睡眠時間を合計しても6時間に満たない。

地面にはゴロゴロと石が転がっていて歩きづらい灼熱の荒野。


足の裏には豆がいくつも出来ては潰れてを繰り返し、ブーツが血でグチョグチョ言っているのが分かる。


何度かジョナとクロに乗ろうと考えたけど、ジョナとクロも疲れているのが分かっているし、何よりまず信頼して欲しいという気持ちが強かった。

目の前の蜃気楼をぼんやり眺めながら、足の裏の痛さと体の疲れで意識が飛びそうになるのを堪えつつ、なんとか通常のペースをキープしながら歩き続ける。


それでも心では「まだまだ行ける!」という気持ちだ。


しばらく歩いていると、疲れが限界に来たのか無意識で勝手に声を上げながら笑い始めた。

諦めて帰りたいという気持ちは微塵も芽生えていないのに、体が勝手はじめた行動に正直、自分でも驚いた。


とりあえず水を多めに飲んで、少し休憩。


それからまたしばらく歩き続けていると、今度は無意識なのに涙が零れ始めた。

急に雨が降ってきた時のそれのような、「あれ?これ涙か?」という感覚だ。


精神的にはまだまだ行けるのに、肉体的苦痛が限界に来ているのか。


今から引き返しても進んでも、どっちみち歩いて5,6時間はかかるし、ここまでの頑張りを無駄にしたくはない。


とにかく、意識を無にすることに集中しながら歩き続けることにした。





移動距離:38
座  標:北緯 49.14932 , 東経 91.14437