朝4時すぎから6時まで寝た。
モンゴルの西側は首都ウランバートルより1時間遅いんだけれど、ちょうど時差のラインを超えていたから時計を修正して初めての朝だった。
いつもの癖で6時まで寝てしまったけれど、それは昨日までの7時ということになる。
太陽もかなり昇っていていつもの6時よりもかなり暑い。
たった1時間だけど変な感覚だ。
朝食がわりに板チョコを齧りながら荷物をまとめる。
クロの鞍ズレは軽症とはいえまだ治っていなくて、ジョナも若干の鞍ズレっぽい状況になっている。
俺の足はかかとの痛みとマメの状態がかなり回復していたから、今日は歩くことにした。
前回、しばらく泊まったバヤンモックやお母さんに止められていたけれど森の中を通る道が見えてきた。
全員、体力的に限界が来ているから半分の距離になって２日ほど短縮できるし、山賊に注意しながらそっちの道を進むことにした。
スマホの充電が間に合わなくて、今回初めてクロの上にソーラーパネルを広げて移動中に充電してみることにした。
移動中の充電はソーラーが壊れる可能性があるから、なるべく避けてきたんだけれど今は音楽なしで10時間も歩けるほど気力が残っていない。
少し移動してから充電されているか確認してみると問題なさそうだった。
今日はめちゃくちゃ暑い。
軽く雨でも降ってくれと願いながら3時間ほど進んでいると、初めてちゃんとした森が見えてきた。
近くに川も流れている。
暑さで意識朦朧としている頭を川に突っ込んだ。
冷たいし綺麗だし思わずそのまま水をガブ飲みをしてしまった。
いつもはそのまま飲むなんてことはしないんだけど、誘惑に勝てず。
クロとジョナもガブガブ飲んでいる。
先に進むとすぐに森は抜けてしまい、また草原に。
そのまま進んでいると、また小さな森が見えてきて川が流れている。
川を見つける度に頭を突っ込んで冷やす。
森には山賊が住んでいるという話はよく聞いていたから警戒しながら進む。
途中、休憩がてら木にジョナとクロを繋いで、服を全部脱いで、警戒のためにむき出しにした大きなナイフを服の上に乗せて水浴びをした。
絵画のように綺麗な森と川でのそのシチュエーションがなんかRPGみたいで自分で笑ってしまった。
少し進むとやっぱり森を抜けてしまってすぐ草原に。
まだ完治していなかった足が痛くなってきて、でも今クロかジョナに乗ったら鞍ズレが癖になりそうで、なんとか音楽を聴きながら気力を振り絞って歩き続ける。
すると、草原にポツポツと花が咲いているのが見えてきた。
先に進むにつれて花は増えていき、辺り一面が花畑になっていてすごくいい香りがする。
そこを雲の影が次々とゆっくり追い越していく。
その光景に、「俺、知らないうちに死んだのかな」と考えてしまったほど。
360度、どこにも人も道も人工物もない中、風の音とクロとジョナの息遣いだけが聞こえている。
その中をゆっくり歩き続ける。
幻想的な光景に足の痛みも吹っ飛んだ。
しばらく進むと花畑からまた草原に戻って、疲れや痛みも元に戻ったんだけれど。
18:50、目的地より少し手前にゲルが見えてきた。
日も陰ってきているし、草も川もちょうどよかったからゲルの家族に声をかけて近くにテントを張らせてもらった。
ブーツを脱いで足を見てみると、爪は１つが完全に割れて剝がれていて、豆もいくつかやぶれて靴下が血まみれになっている。
大きな豆の下に小指ほどの血豆もできていた。
完治していない足での42kmは無理があったようだ。
ジョナとクロの様子を見ると、ジョナは鞍ズレはほぼ完治状態、クロもかなり良くなってきている。
念の為、足も見てみるとクロの右前足の蹄鉄が蹄ごとなくなっていた。
ここはおじさんが最初に何度も打ち直していた足だ。
この足ではもうこれ以上進むのは無理だろう。
なんとか一緒に行きたかったけれど、クロにはこの辺で休ませてあげるのがベストだと思う。
最後まで一緒に行けないのは感づいていたけれど、クロを手放す決心を固めた。
近くの家族に、この辺で馬を交換できそうな村がないか聞いて場所を確認すると40kmほど先に馬をたくさん飼っている家族がいるとのことだった。
明日の行動用に川の水で紅茶を沸かしたり、魚缶詰でごはんを食べて準備を整えてからはテントの外に出てクロの傍に座った。
スキットルに入っているウォッカを飲みながら、クロを撫でたり、熱中症で倒れた時に助けてくれたお礼を言ったり、この場所は良かったとか、あの時はしんどかったよなーとか話しながら過ごした。
