オオカミを警戒しつつ、座ったまま30分仮眠を取って3:15に再出発。
最後に飯を食べてから、もう30時間以上も経っている。
空腹と疲労も限界を超えている気がするけれどクロとジョナの為に、なんとか気力を振り絞って歩き続ける。
朝5:00過ぎ、やっと村らしきものを発見!
ゲルの近くに人がいる!!
人がいるという安心感ってこんなにも強いものだったのか!
人に会うのは1日半ぶりだけれど1週間は会っていなかったように感じる。
早速、牛の乳しぼりをしていたおばさんに話しかけてみる。
「この辺に店はある?」
「ここはうちのゲルだけしかないよ。店なら2,3km先の村にある」
周りを見渡してみると確かに冬営地用の小屋がいくつか建っているだけでゲルはこの1つだけだ。
あと3kmくらいなら歩けるし、何より今日はジョナとクロに無理をさせてしまったから2日くらいは休ませたいこともあって滞在用の食料と飲み物の補給もしなきゃいけないからこのまま先に進むことにした。
もう空腹なのか疲労なのか睡魔なのか分からないくらいフラフラになりながら歩き続けたけれど、一向に村は見えてこない。
またモンゴル人の適当な距離感のせいか。
そんな風に思いながら5km程進んでふと気付く。
もしかして俺が外国人と分かって二十三ではなく二、三キロと伝えたのではないか。
地図を見ると確かにあの地点から23km進んだところに大きな村がある。
あと18kmも進めるのか不安だけれど、戻るにしてもあの場所はそんなに草も良くないから結局、明日には先に進むことになる。
体力も気力も限界は超えていたけれど、小まめに休憩したり、ジョナに乗ったり、降りて歩いたりしながら少しずつ進むことにした。
やっと岩だらけの地形から少しずつ草の生えている土地になってきた。
綺麗な風景とあまりの眠気に、今は夢の中にいるんじゃないかと錯覚しそうになる。
途中、ジョナに乗ろうと鐙に片足を掛けた瞬間、鞍が腹の横にまでズレてそれに驚いたジョナが暴れて落馬しかけた。
幸い手綱は離さなかったから首を抱え込んですぐに安心させることが出来たけれど、一歩間違えればこの体力だしそのままジョナもクロもどこかに走り続けて全荷物を失っていただろう。
乗る前に腹帯の緩みはちゃんとチェックしたはずなのに、なんでこうなったのか分からない。
判断力が著しく落ちていることを感じて、改めて気を引き締め歩き始める。
しばらく進んだ後、LEDライトがなくなっていることに気付いた。
さっき落馬しかけたところか?
あのライトがなければ夜に進むことも夜にテントの中から周りを警戒することも出来なくなる。
体力的には厳しかったけれど30分ほど引き返して落馬しかけた地点を探してみるけれど、全く見つからない。
ということは更に1時間半以上進んだ先の、ジョナとクロに草を食べさせる為に座って仮眠した場所あたりか。
そこに落ちている確証もないし、これ以上戻ったら今日は村に付けなくなる。
LEDライトがなくなるのはかなり厳しくなるけれど全員の体力を考えて諦めることにした。
無心で歩くことにだけ集中して、先に進む。
もう携帯の充電は切れたから音楽を聴くことも出来ない。
辺りにはジョナとクロの息遣いと、足を引きずりながら自分が歩く音だけが聞こえる。
昼前、やっと村が見えてきた。
急に草原の中に現れた村はまるでRPGのようですごく美しい。
今まではゲルがいくつかあるだけの村が多かったけれど、ここはかなり大きくてバーシャ(一軒家)がたくさん建っていて屋根もカラフル。
周りは山に囲まれていて、村のすぐ横には川も流れていて、その周りを馬が駆け回っている。
まだ距離は少し離れているけれど幻想的な村だと感じた。
村の少し手前に流れている川に降りていくと草もかなり良いし蚊や虻もほとんどいない。
ジョナとクロに水を飲ませてそのまま村に入り、近くを歩いていた人に聞くとどうやらこの村には店がいくつもあるようだ。
近くの店を片っ端からLEDライトが売っていないか聞いて探しに回ったけれど結局見つからない。
諦めて食料と飲み物を買っていると、客として来ていたおじさんが声を掛けてきた。
「どこから来たんだ??」
「バヤンウルギーから来ました!」
「馬で!?一人で!?」
「馬で一人です!」
「え!?何日かかった?」
「20日くらいです!」
「すごいな!!これからどこまで行くんだ?」
「とりあえずウランバートルまで!」
店内の全員が一斉にこちらに注目した。
今まではここで笑われていたところだけれど、今は誰一人として笑わない。
衣服や装備も既にボロボロだし、ウランバートルまでの距離の1/3を進んでいるから現実味が出てきているんだろう。
さっきのおじさんが驚いた顔から真顔に戻り、
「俺は馬を20頭くらい飼っている。良かったら馬の様子も見てやるし草のいい場所も特別に教えてやる。とりあえずうちに来い!」
と言ってくれた。
このおじさんは見るからに人の良さそうな顔をしていて信用できそうなので着いていくことにした。
村の外れにあるおじさんの家まで歩きながら色々とお互いの事を話した。
彼の名はバヤンモックと言って母と二人で馬を飼って暮らしているらしい。
途中、地図を広げて昨夜に通ってきた道を見せるとそこはオオカミが多くて地元民も避ける場所だったようだ。
そこでテントを張っていたら少なくとも馬はやられていただろうと教えてくれた。
この村でも年に1~2人はオオカミに食べられていて家畜は毎晩のようにやられるらしい。
それでも行方不明になるだけだから正確な人数は分からず。
先月、オオカミ狩りに行って行方不明になった人は、服の一部だけが血の付いた状態で発見されたから恐らくはオオカミだろうという話だった。
そんな話を聞いているとあっという間に彼のゲルに到着した。
庭にクロとジョナを繋いで、所々少し穴の空いたそのゲルに入るとバヤンモックのお母さんが笑顔で出迎えてくれた。
彼のお母さんは耳が聞こえないらしくて表情やジェスチャーで会話をする。
モンゴル語を流暢に話せない自分にとってその会話は得意分野だ!
お母さんはお昼ご飯にツーヴァン(肉うどん)を作ってくれて「食べなさい!」と出してくれた。
見た目はごく普通なツーヴァンだけど、40時間以上何も食べていなくてめちゃくちゃお腹が空いてたせいもあってすごく美味しい。
かなりの量を作ってくれたようで、食べ終わる度に「まだ食べれるでしょ」とわんこそばのようにドンドンおかわりをついでくれた。
満腹になると急に疲労と眠気が襲ってきた。
さすがにご飯をご馳走になってすぐに寝るのは失礼だと思って耐えていたけれど、お母さんにはすぐに見破られてしまった。
「昨夜はあんまり寝れなかったのかい?」
「オオカミを警戒して全然寝れなかった」
そう言うとお母さんは真顔で無理矢理、俺の体を掴んで横にした。
「遠慮はいらない。少し寝なさい」
お母さんの優しさとあまりの眠さで「ありがとう」と言って30秒も経たずに眠りに落ちた。
2013.07.17
【21日目①】初対面の人のゲルで力尽きる
移動距離:95km
座 標:北緯 49.16556 , 東経 94.51283
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昼の12:00前にバヤンモックのゲルの床の真ん中で寝てしまい、起きると既に18:00になっていた。体には毛布が掛けられていて、お母さんが晩御飯を目の前で作っている。「おぉ。起きたかい?晩御飯が出来たら...
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