朝6:00。

昨日の雨の名残か、空は灰色の分厚い雲で覆われている。


ゲルのおじさんが馬に乗って近づいてきた。

「おはよう!よく眠れたか?お前の馬は元気になってるぞ!」

「少し寝れた!ありがとう!」

「さっき、近くにオオカミが出たから銃で追い払ってきた。この辺はよく出るから気を付けろよ!」

よく見るとおじさんは脇に長い猟銃を抱えていた。



一向に姿を見せないから、なんとなく妄想の生き物のような気持でいたけれど、自分の中で急にオオカミが現実味を帯びてきた気がする。

1対1ならまだなんとかなるかもしれないけれど、オオカミは基本的に5~10匹の群れで行動していて相当に頭がいいらしい。

しかも牙には雑菌が大量にいて、噛まれただけでも生き残れる確率はかなり低いらしい。


これからはもう少し気を引き締めないとな!


朝食代わりにパックの豚汁をお湯で溶いて飲み込み、みんなにお礼を言って出発!

なんだかんだ準備に手間取って、9:30になってしまった。

それでも焦らず、おじさんに言われた通り、走らせずにゆっくり歩かせることにした。



しばらくして、なんとなく後ろを見上げてみると、こちら側に雨雲が近づいてきているようだ。

3kmほど後ろで、カーテンのように雨が降っている場所と降っていない場所の境界線がハッキリわかる。



いきなり朝から雨は、さすがにテンションさがる。

少しでも追い付かれないように急ぎ足で進むけど、ジリジリと追い詰められて、ついに直撃。

世間でよく言われるバケツをひっくり返した雨って感じだ。


レインコートをかぶって進み始めたはいいけれど、途中で事件発生!

レインコートを取り出した時に紐が緩んでいたのか、ジョナにつけてた荷物が鞍と一緒にお腹側にクルっと回ってしまい、ジョナが大パニック!


頭絡と頭を抱えて力ずくで抑え込むと、ジョナも少しは落ち着いて、ようやく鞍と荷物を解くことが出来た。

どしゃぶりが降ってようと、紐が緩んでないかの確認は絶対に怠らないようにせねばと反省。



少し休憩させた後、次は絶対に解けないように荷物をクロに括りなおしたけれど、やっぱりジョナは荷物がまだ少しだけ怖いようだ。

怖い思いをさせてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだ。。。



馬から降りて、ゆっくり歩かせながら心を落ち着かせる。

2時間歩いても、相変わらず雨は降り続けている。


まぁカンカン照りの荒野に比べれば、顔の周りを飛び回るハエもいないし、喉が渇いたら口を開けて上を向けばいいし、日射病になることもない。

景色こそ悪いけれど、こっちのほうが気は楽だな。


ジョナも元気になってきたところで、跨ってみると全然平気そうだ。


いつの間にか雨は止んだけれど、相変わらず雲は分厚い。


靴ごと履ける、ロシア軍用のレインコートのおかげで靴も服も全く濡れてないのが救いだ。


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▲これはレインコートの下を脱いでしまっている時


しばらく進むと生い茂っていた草もどんどん減ってきて、そそり立つ岩山が増えてきた。

岩山を縫うように進んでみるけど、近くに人の気配もなく、動物もいなく、車の通った後もない。

気持ち悪いほど静かな場所な上に、分厚い雲が不気味さに拍車をかける。



3m鞭をすぐに出せる位置に取り出して警戒しながら進んでいると、岩山に囲まれた行き止まりの場所に着いてしまった。

地面には動物の骨が散乱している。


オオカミの縄張りに入ったのか?



急ぎ足で馬を進めると、その先にも所々で骨が落ちていた。

もちろん、近くに村はなく、ゲルもしばらく見てない。


もし夜までにこの場所を抜けられなかったら、色々と面倒なことになりそうだ。


急ぎ足で警戒しながら進み続けたけど、特に何事もなく目的の町、ウムノゴブ到着!

町に入った時の安心感と言ったらない!


想像より大きな町で、ゲルじゃない家も経ってるし、2km四方くらいはありそう。

一番手前にあったゲルを訪ねて、食料が売っている場所がないか聞いてみると、中にいた6人くらいのおじさん、おばさんが「お茶を飲んでけ」からの「うちに泊まってけ」な流れに。

「草のいい場所でテント張って寝るから大丈夫!」と答えるも、「俺が一晩見ておくから!」「俺はお前と酒が飲みたいんだ!」と

かなり粘られて、結局は根負けしてしまった。


荷物を降ろすと、おじさんがバイクを出してくれて店まで連れて行ってくれた。

帰りに、やたら色んな家に連れていっては紹介してくれて、その先、その先でお酒やタバコをご馳走してもらって戻るころには2人ともご機嫌になっていた。


家に戻ると奥さんが「あんた、また飲んできたの!」とおじさんを叱っていた。

なんだかんだ仲の良い夫婦みたいだ。


おじさんは歴史の先生、奥さんは英語の先生らしい。


久しぶりに英語を話せる!


知らず知らずのうちに慣れないモンゴル語で、伝えたくても伝えきれないストレスもあったのか

英語で話せると分かった途端に一気に今までの事とか、くだらない事まで色々と話してしまった。


やっぱり無意識のうちに言語の不自由で疲れたりしてるんだなと思った。


今日、通ってきた岩山に動物の骨がたくさん落ちていたことを伝えると、確かにあの辺りはオオカミが多いらしい。。。



辺りもすっかり暗くなってしまったから急いで、ジョナとクロに小川の水を飲ませて、おじさんの案内で市役所の柵で囲まれた庭にジョナとクロを放した。

「本当に市役所の庭に放していいのか?!」って何度も確認したけど、電話で許可を貰ってあるから気にするなとのこと。


確かに美味そうな草がたくさん生えていたし、まぁいいか。



その後は遅くまでおじさんと奥さんとお酒を飲んで、途中で近所の人も飛び入り参加して楽しい夜だった。


移動距離:34km
座  標:北緯 49.06387 , 東経 91.42350