朝起きると、馬の持ち主のおじさんが帰ってきていた。
猟で捕ってきたタルバガン(プレーリードッグ)を焼いている。

「おはよう!」
「おはよう。バヤンウルギーから一人で来たんだって?」
「かなり大変だったよ」
「山賊に襲われて行方不明になる人が多いのによく無事だったな。馬を見たが、あいつは大人しくて子供が乗る分には良い馬だが、歯並びも悪いし体も小さいから300,000Tg(約2万円)なら交換してあげるよ」
正直悪くない金額だ。次の町はそこそこ大きいから半額で交換してくれる相手も見つけられると思うけれど、クロをこれ以上歩かせたくない。
「交換する馬を見せてほしい」
「今取りに行かせてるから、そろそろ帰ってくるはず」
昨日会ったお兄さんが取りに行ってくれているらしい。
その馬を待つことにした。
目の前の川が綺麗で、水浴びしたり、ぼーっと眺めたり、山賊と戦った際に破れた服を直したりしてゆっくり過ごした。
モンゴルで協力してくれている千夏さんに電話で話したいことが山ほどあったけれど、近くの丘の上に登っても圏外だった。


昼を過ぎても馬を連れてくるはずのお兄さんは一向に戻ってこない。
ビザの日程に余裕はないけれど、クロともうすぐお別れになるから、クロを撫でたり話したりする時間が出来たのは正直嬉しい。
そのうち雨が降ってきた。
おじさんがテントにやって来て、「一緒に酒でも飲むか!」と誘いに来てくれたからゲルにお邪魔することに。
さっき焼いていたタルバガンを食べながらアルヒ(モンゴルウォッカ)を飲むのが最高だった!
昨日のお兄さんの弟もいたんだけど、時計くれとかGPSくれとかやたらとせがんでくる。
その度におじさんに止められていたけれど、面倒な性格だった。
テントに休みに戻ると、しばらくして弟が一人でテントに強引に入ってきた。
「ナイフ見せて」
モンゴルではナイフを見せてほしいと言われることは珍しくなくて、渋々見せてあげた。
するとそのナイフを手に取り、急に真顔で俺の首元に突きつけてきた。
「このナイフくれよ」
疲れていたのと、そいつがすごく嫌いだったこともあって、面倒な顔で睨みながら言い返した。
「やってみろよ。今殺せば30万Tgも手に入らないし、俺は日本人だからお前はしばらく刑務所に入るけどな」
「わかったよ!冗談だよ。怒るな」
弟は軽く俺の肩を叩いてテントから出て行った。
またアイツが何をするか分からないから、クロとジョナ(もう一頭の馬)をテントから遠目で見ながら過ごしていると、お兄さんが馬を2頭連れて帰ってきた。
「待たせたな!!かなり遠くまで行っちゃって、探すのに時間がかかっちゃった!」
馬は、1頭は体格が大きくて縦断に使ったウマオ並みの暴れ馬、もう1頭は体格はやや大きいが人慣れしてないのか臆病な感じの馬だった。
既に日が沈んでしまったから、明日の朝に試し乗りをすることに。
ここ最近は夜になると震えが止まらないくらい、かなり寒くなってきた。